Extermination
19年前 ニューヨーク ロウアーイーストサイドのはずれ
傾いた古いアパートの5階に 小さくて白い部屋 を借りて住みだしたころのはなし
「ネズミ駆除に来ましたが留守でしたので また来ます」
という英語で殴り書きで書かれたメモが ドアに張られていた。
当時 英語が全くできなく いつも持ち歩いていた 英和和英辞書で
張り紙の意味を調べてみた。
「皆殺しに来た。また戻ってくる!」 と直訳した私は 恐怖のあまり アパートを飛び出した。
ルームメイトになりたてだった家主が 仕事から戻ってくるのを外で震えながら待った。
夜 公衆電話で彼女の帰宅と無事を確認し(当時の英語力では 張り紙についてを電話で説明できなくて)
おそるおそる 急いで戻ると 皆殺し予告のメモは キッチンのテーブルに置かれていた。
メモに怯える私を わらって ネズミ駆除についてのメモだと説明してくれ
一件落着 ほっ とした。
という エピソード。
インターネット 携帯電話が ほとんどない時代
京都の映画の撮影所から リュックひとつ ニューヨークに飛び込んできたばかりで
ラーメン屋の張り紙をみて決めたフラットは 当時 ジャンキーが多かったストリートに傾いて建っていた。
皆殺し という言葉は あながち なきにしもあらず さもありなん で
Extermination という張り紙を あの時 本当に怖い と思った。
そんなこんなで 月日は経ち
昨日の私は 暗室の屋根うらにできた 蜂の巣の駆除=Extermination にとりかかることに。
蜂たちが眠るであろう 深夜を待ち
白い手袋と白いマスク 白いゴーグル 白いタオルをほっかむり
ゴーストバスターズみたいに 白装束姿で
暗闇の中 蜂の巣めがけて 10m先まで噴射可能な殺虫剤のガンで狙いを定め
返り討ちを怯えながら 一息に 噴射をつづけた。
ふと 「みつばちのささやき」 という 大好きな映画を 思い出した。